12月号 マタニティハラスメント

2015年12月(第79号)

2014年秋に最高裁判所においてマタニティハラスメントに関する判決が言い渡されました。この判決を受けて、厚生労働省は男女雇用均等法の運用の見直しを行い、違法な不利益取扱いの基準を明確にしました。今回は、この判決をめぐる問題と行政の判断基準について整理してみます。

マタニティハラスメント判決とは

この裁判は,医療介護の事業場で副主任の職位にあった理学療法士が妊娠したために軽易な業務への転換を申し出たところ、転換と同時に役職を解かれ、育児休業からの復帰後も副主任に復帰させられなかったことから、降格の無効と損害賠償を求めたものです。1審、2審は会社の裁量権の範囲であるとの主張を受け入れましたが、最高裁判所は原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があるとして、これを差し戻しにしました。

最高裁判所は、男女雇用均等法第9条第3項の「妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」を基に、本件は不利益な取扱いの当たるとして次の根拠を示しました。①軽易な業務への転換に伴い降格する必要性が明らかでないこと、②降格することによる業務の負担低減の内容や程度が明らかにされていないこと、③降格に対し形式的な同意はあるが、自由な意思によって承諾したとの合理的な理由がないこと。

厚生労働省の判断基準

この判決を受けて、厚生労働省はそれまで明確でなかった、男女雇用均等法や育児介護休業法で禁止をしている「妊娠、出産、育児等を理由として不利益な取り扱いを行う」ことに関して判断の基準を示しました。違反の要件である「理由として」とは、妊娠等と不利益な取り扱いとの間に因果関係があることを指します。これを、「妊娠、出産、育児休業等の事由の終了から『1年以内』に行われた不利益な取り扱いには『契機として』の因果関係があり、原則として違法」としました。①妊娠の報告を受けてからの成績不良を理由とする雇止め、②育児休業の相談を受けてからの整理解雇は原則として違法になります。

例外的な事由

『1年以内』に行われた不利益な取り扱いは原則として違反ですが、次の事由は例外として認められます。①業務上の必要性から不利益な取り扱いをしなければならないとき、②当該社員が取扱いに同意しているとき。

例外はあくまでも例外ですから、安易に主張することは危険です。①の業務上の必要性を主張するには、必要性が不利益を上回ると認められる「特段の事情」が存在することが必要です。②の同意は、署名・捺印があるだけでは不十分です。有利な条件が不利益を上回ったり、会社から適切な説明がなされたりして、一般の社員なら同意するような「合理的な理由」の存在することを示す必要があります。

課題

従来はともすると、合意事項は署名捺印を以って確認完了と考えてきたところがありました。本件の最高裁判所の判決は、形式的な同意があったとしても不利益な取り扱いを違法と明確に断じることにより、単に「サインを貰えばOK」との手法が通じないことを示し、合意形成の確認方法に課題を投げかけました。

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