3月号 通勤手当

2024年 3月(第178号)

今月の事務所通信は、「通勤手当」です。労働基準監督署で相談員をしていたときに通勤手当で会社と社員が揉めている事案に出会ったことがあります。義務でもない手当の支給でトラブルになるのは会社としても不本意です。それらを含めて通勤手当にまつわる話題を書いてみました。

法律で義務化されている訳ではありませんが、通勤手当を支給している会社はあります。今回は、通勤手当にまつわる話題を紹介します。

法的な関わり

通勤手当に直接的に係わる法律は所得税法ぐらいです。電車やバスなどの公共交通機関での通勤では通勤手当が月に15万円以下であれば非課税になります。マイカー通勤では距離によって非課税枠が変わってきますが、詳細は省略します。

民法では通勤に係る費用は社員負担とされています。民法第484条、第485条が根拠とされています。ここでは条文は省きますが、労働を提供する場所は会社、それに係る費用は労働を提供する者が負担すると規定されています。通勤に必要な衣服や靴は社員持ちが一般的ですが、通勤費もそれと同じ理屈で社員負担とするのが民法の原則です。

通勤手当支給の規定

通勤手当の支給は任意の契約です。任意の契約とはいっても、支給を就業規則等で規定すると労働基準法上の賃金と見做され同法やその他の法の規制を受けることになります。

通勤手当の規程をいい加減にしていると、思わぬトラブルになることがあります。規程を作成するときは次の点に考慮します。

(1)対象者の特定:徒歩圏内は対象外としたり、正社員とパート社員で支給基準を変えたりすることがあります。例えば正社員には定期券代、パート社員には回数券代とします。ただし、正社員とパート社員の間で不合理な差を設けることは禁止されています。

(2)手当の上限:実費の全額支給としておくと、通勤手当が高額になることがあります。非課税枠内や経営方針に基づいて上限を設けることで不本意な出費を抑えることができます。

(3)通勤経路・方法:経済的かつ合理的な通勤経路・方法に制限することは必須です。新幹線通勤やグリーン車通勤を認めるか否かを含めて規定しておきます。

(4)中途退職者、欠勤者の手当清算方法:6ヶ月定期代を支給しているケースでは、支給した直後に退職されると、退職後の定期代が無駄になります。長期欠勤者も同様です。このようなケースの清算方法を規定しておかないと、無駄な通勤手当の返還を求めることが困難になります。

(5)マイカー通勤:マイカー通勤に対しての通勤手当には種々の規定が必要です。①直線距離か道のりか、②燃料単価の設定基準は、③燃費は平均か車種ごとか、は最小限決めておきます。

通勤手当から話が逸れますがマイカーを業務にも使うとなると自動車保険料や車使用料、駐車場代の会社負担や、なによりも事故時の費用負担等を含めて決めておくことが必須になります。

通勤手当と交通費・

交通費とは出張や業務での移動で掛かる交通費です。通勤手当も交通費のどちらも交通機関を利用するときに発生する費用ですが、性質は異なります。通勤手当は賃金で、社会保険や雇用保険、労災保険では保険料算定の基礎に組み入れられます。非課税枠はありますが、所得税の課税対象です。一方、交通費は費用弁済なので保険料算定や所得税に無縁です。

まとめ

通勤手当を支給することがトラブルの芽になってはなりません。そのためには、合理的な通勤手当規程を制定することが必要です。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。