7月号 てんかんと会社責任

2015年7月(第74号)

日本で100万人と推定されるてんかん患者。決して珍しくない病気ですが、衝撃的な事故ニュースのために必要以上に危険視されている病気です。今回は、てんかん患者をはじめ、病歴のある方を雇用したときの責任について考えてみます。

てんかんに起因する事故例

平成23年の鹿沼市クレーン車暴走事故と平成24年の京都祇園自動車暴走事故は、てんかん患者が係った事故として記憶に新しいものです。どちらも勤務中の事故であり、被害者に対して会社にも賠償責任が課せられた事件でした。

面接時の病歴情報収集

採用面接で病歴を聞くことは違法ではありません。一方、病歴は他人に知られたくないプライバシー情報の1つです。面接でストレートに聞いて良いものか迷われますし、聞かれた方も良い思いはしません。

お勧めは、健康確認票の利用です。高所作業や運転業務に、てんかん、脳・心臓疾患、めまい等の病歴を確認することはおかしくありません。

告知されたとき

健康確認票等でてんかん等の病歴を告知されたときに、直ちに不採用とすることはお勧めできません。多くの事業主は、病気の専門家ではありません。そこで、予定している業務内容を詳細に記載した書面を準備し、その業務への支障の有無の判断を専門家である医師に求めるのです。採用後に、告知されたときも同様です。医師が業務に支障があると判断すれば、辞めて頂くか、解雇するかのいずれにしても説得力があります。

病気を起因とした事故が起きたときに会社は2つの責任を問われます。安全配慮責任と第3者への社会的責任です。同じく病気を起因としていても、両者の責任は、全く性質を異にしています。

安全配慮責任

労働契約法第5条に、「労働者の安全への配慮」と題して、会社は「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定されています。事故で社員が死傷したときに、会社の安全への配慮の有無が問われことになります。

社員から病気の告知を受けても何ら手を打っていなかったときは安全配慮に欠けたとして損害賠償の責任が課せられることがあります。ところが、医師の判断を仰いで、業務に就かしていたならば責任を負うことはないでしょう。本人が、健康確認書に虚偽の記載をしていたときも同様です。

第3者への社会的責任

民法の第715条に「使用者等の責任」と題して、会社は社員が「第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定されています。但し書きで、相当の注意をしたときは責任がないとされていますが、ひとたび第3者が死傷すると、裁判所は被害者救済を主目的に判断します。直接に危害を加えた社員に支払い能力がないとなると、当然に損害賠償の責を会社に課します。冒頭に紹介した2つの事故では、会社に相当の賠償責任が課せられました。被害者の救済が裁判所の目的ですから、告知や医師の判断の有無にかかわらず賠償責任は免れないでしょう。

てんかんに限らず、病気に起因する事故に対処するには、第3者に危害を加える可能性のある業務に就かせないこと、第3者損害賠償等の保険を掛けることが会社の取りうる有効な手段です。

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