7月号 不合理な待遇格差

2018年 7月号(第110号)

今年6月1日、正社員と契約社員の待遇格差を争う2つの最高裁判所の判決がありました。この判決は非正規社員の待遇格差に関してのリーディングケースとなりうるものですので、2つの事件を通して、待遇格差について考えてみます。

長澤運輸事件 

長澤運輸(株)(以下、N社とする)は、社員百数名の神奈川県を中心に関東一円で事業をしている運送会社です。事業所は本社と営業所1ヶ所で、セメント、液化ガスおよび食品輸送を行っています。この会社を定年後再雇用された嘱託社員3名が、職務内容が正社員時と全く変わらないのにも拘わらず、能率給、職務給、精勤手当、住宅手当、家族手当、役付手当、賞与が支給されなくなったのは正社員と契約社員との不合理な待遇格差を禁じた労働契約法20条に違反していると訴えた事件です。
最高裁判所は、不合理の判断要素として職務内容及び変更範囲に関連する事情に限定すべきでないとし、「その他の事情」を考慮して、精勤手当以外の手当の不支給は不合理ではないとしました。「その他の事情」とは、例えば能率給、職務給については嘱託社員には老齢厚生年金が支給されること、住宅手当、家族手当については嘱託社員の扶養や生活費の負担は正社員世代に比べて減っていること、賞与については既に退職金が支払われていることを挙げています。

ハマキョウレックス事件 

(株)ハマキョウレックス(以下、H社とする)は、正社員795名、臨時社員4,977名を擁する全国規模の自動車運送会社です。運送会社と言っても単に荷を運ぶだけでなく、顧客の物流全般を包括的に請負い、物流費の圧縮や業務効率化の実現を支援する3PL(3rd Party Logistics)事業を展開している会社です。この会社の有期契約の臨時社員Aが、正社員に支給されている無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当等が契約社員には支給されず、通勤手当も正社員の月5万円限度に対して、契約社員は3,000円限度しか支給されないのは労働契約法第20条に違反していると訴えた事件です。なお、同社では正社員と契約社員の業務内容や責任の程度に差はなく、両者の差は、正社員には全国を範囲とする転勤があることと、将来は会社の中核を担う人材として期待されていることでした。
最高裁判所は、個々の手当について検討し、住宅手当は、正社員は転勤に伴い住居を変更するための補助の意味合いがあるとして不合理とは認めなかったが、無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当、通勤手当に差があるのは不合理としました。これは支給目的が正社員と契約社員であることとは無関係だからです。

まとめ 

平成28年5月の東京地方裁判所によるN社全面敗訴の判決は衝撃的でした。今回の最高裁判所判決では、N社事件は会社の勝ち、H社事件は会社の負けと勝敗を分けました。この2つの事件は全く同じ裁判官が担当しているので、判断基準は同じと見ることが出来ます。
判決内容には、異論もあろうかと思いますが、筆者は概ね妥当と思料しています。この判例を受けて、非正規社員を雇用している会社では、その給与構成や支給基準の確認が必要となることは必至です。さらに正規と非正規の間で待遇格差があるときは、その差の理由の説明責任が会社に課せられていることを本判決は示しました。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。