2月号 労働時間の該当性

2024年 2月(第177号)

今月の事務所通信は、「労働時間の該当性」と題して正式な業務ではなくても労働時間となりうる不活動時間を話題としました。最近は働き方改革の推進に伴う法改正やSNSによる情報伝達の影響を受けて社会的に労働に関する関心が高まり、会社には労働時間把握義務が厳密な形で求められるようになってきていいます。従来慣習として時間外に行われていた行為を労働時間として扱わなければならないケースもあります。これらが労働基準法上の労働時間に該当するか否かの判断ポイントを紹介しました。

厚生労働省が策定したガイドライン(平成29年1月20日)には「労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」とあります。具体的な業務に従事していない、いわゆる不活動時間も指揮命令下では労働時間に該当します。今回は、不活動時間を含めていくつかのケースを紹介します。

昼休みの電話番時間

社外からの問い合わせのために昼休みにも電話を受けるようにしている会社があります。電話番を決めていれば、その社員だけが労働時間となり昼休みを別途取らせれば済みます。事務所の全員が電話に出る体制では、全員に昼休みを別に取らせなければなりません。

緊急の連絡用携帯電話

休日に緊急の連絡用に携帯電話を持たせている会社があります。携帯電話を持たせた時間が即労働時間になる訳ではありませんが、労働時間と認定された判例があります。応答の必要性や業務の緊張度・緊急度が高いことが考慮されました(アンデバラン事件:横浜地裁判決令和3/2/18)。

移動時間

訪問診療や訪問看護、訪問介護では複数の利用者さん宅を回ります。この移動時間は厚生労働省通達基発第0827001号(平成16年8月27日)によると、「使用者が、業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当する」として原則は労働時間としています。ただし利用者宅への直行・直帰時間は通常の通勤時間で労働時間ではありません。

月曜日の遠方での早朝会議に出席するときに日曜日に現地近くで宿泊することがあります。このケースでは日曜日に特別の業務を課していない限り労働時間とはなりません。法律に規定はありませんが、旅費規程を設けて出張手当等を支給している例があります。

研修・教育訓練時間

義務づけされている研修・教育訓練に参加している時間は労働時間です。自由参加は労働時間にはなりません。建前は「自由参加」でも実質的な指示があれば労働時間になります。参加を人事評価や配置転換時に考慮したり、業務に密接に関連した研修で不参加では業務に支障を生じたりのこきは自由参加と言えず、労働時間になります。

更衣時間

ガイドラインでは、評価は個別具体的に判断されるものであると前置きした上で「着用を義務づけられた所定の服装への着替え等」は労働時間として扱わなければならないとしています。この扱いは最高裁判所まで争われた三菱重工業長崎造船所事件を反映したものです。
食品等の製造会社等では異物混入防止のためにクリーンルーム内の作業は決められた作業着以外の着用を禁止しています。このケースでは更衣時間が労働時間に該当することは明白です。

まとめ

労働時間の把握は会社に課せられた責務です。従来から慣習で行われていた行為も指揮命令下で行われていれば労働時間になります。上記の例以外でも就業時間前後の掃除や体操等も実態が指揮命令下に行われているものであれば、労働時間として対処することになります。

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