8月号 秘密保持契約

2024年 8月(第183号)

今月の事務所通信は、「秘密保持契約」と題して、秘密保持契約の目的と内容、締結のタイミングを取り上げました。秘密保持契約は万が一、社員が秘密情報を漏洩したときに損害賠償を請求する法的な根拠となる重要な契約です。しかし、本当に重要なのは秘密情報に対する社員の意識を高めることです。秘密保持契約の内容は意識を高めることに注力することが大事です。

会社の技術情報や顧客情報あるいは新製品情報等の社外漏洩は、会社にとって大きな損失になります。今回は、秘密情報漏洩防止策の一つとしての社員との秘密保持契約を取り上げます。

契約の目的

当然ですが、秘密保持契約は会社の重要な情報が競合他社等へ漏洩することを防ぐことが目的です。契約により社員に対して法的拘束力のある義務を課すことができ、万が一情報漏洩があった場合に損害賠償を含めた法的措置を取ることが可能になります。しかし損害賠償は事後の処置です。重要なのは社員に秘密保持の重要性を認識させて日々の情報管理に対する意識を高めることです。

契約の内容

契約の主目的である社員の秘密保持に対する意識を高めることに鑑みて、次の内容を含めます。①秘密情報の種類・範囲、②秘密保持義務の具体的内容、③退職後の秘密保持義務、④漏えい事故発生時の報告義務、⑤違反時の損害賠償責任。

①には会社が秘密管理している具体的な情報が分かるように記載します。秘密情報を単に「業務上知り得た情報」だけでは何が秘密で何が秘密でないか分かりません。部署や役職により種類や範囲が異なるようであれば、人事異動に際して契約更新も大事です。②では、秘密情報の複製や社外持ち出しの禁止、目的外での使用禁止等を規定します。③では、退職後にも秘密保持義務が課せられることを意識させ、在職中の意識をより高める効果を持たせます。④や⑤は事後対策として重要であると同時に、意識向上の効果があります。

契約締結のタイミング

入社日から程度の差はあっても社員は秘密情報に接触できるようになります。よって契約は入社と同時に適用させます。秘密保持契約がなくても社員には職務専念義務や就業規則の遵守義務と同様に当然として秘密保持義務が課せられています。しかし契約の目的は情報管理に対する意識を高めることです。入社時に秘密保持契約を締結し、人事異動により秘密情報の内容に変化があれば、改めて契約を締結するようにします。秘密保持契約の締結を入社や人事異動の条件とすることは契約の強要にはなりえません。

退職時の契約締結

退職間際の社員に秘密保持契約書や秘密保持念書への署名を求めることがありますが、メリットを提示しなければ拒否される方が自然です。契約書等が有効となるには自由な意思による合意であることが求められます。単に署名があったとしても「合理的な理由が客観的に存在」しない署名は無効となる恐れがあります。

退職後も秘密保持の契約が既になされているときは、秘密保持通知書を交付することを推奨します。通知書は、新たな義務を課すものではありませんが、意識を高める効果があります。

まとめ

秘密情報漏洩防止には、①技術的対策:強固な認証方式の採用とデバイス制限、②物理的対策:入室制限、③管理的対策:コピー禁止や社員教育、④職場環境整備対策:防犯カメラの設置、⑤モニタリング・監査対策:コピー機やプリンターの利用ログや入退室ログ管理等があります。これらの対策と今回の秘密保持契約を組み合わせることで、会社の重要な秘密情報を社外に漏洩することを防ぎます。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。