4月号 残業時間証明アプリ

2019年 4月(第119号)

会社に滞在している時間を自動的に計測するアプリが開発され、残業手当の請求データ作成用に利用されています。今回は、いわゆる残業時間証明アプリの概要とその影響その他についてまとめてみます。

アプリの概要 

残業時間証明アプリはいくつかありますが、ここでは(株)日本リーガルネットワークが開発、提供しているスマートフォンアプリ「残業証拠レコーダー」を取り上げてみます。
このアプリではスマートフォンのGPS機能を利用して、会社に到着した時刻を出勤時刻、離れた時刻を退勤時刻として自動で記録し、この出勤、退勤までの時間から休憩時間を除いた時間を勤務時間として計測します。8時間を超えた勤務時間を残業時間とみなし、基本給等を入力すると残業手当を自動で計算します。
同社の代表は弁護士でもあるので、利用者から提供されたアプリのデータを用いて、不払いの残業手当支払いの示談交渉や裁判での証拠として使用しています。

証拠能力 

同社のホームページで、「残業証拠レコーダー」による記録はGPSによる客観的なデータなので証拠能力は高いと主張しています。また実績として裁判所の手続(労働審判)において証拠能力があると認められ、不払い残業手当150万円を獲得に成功した例があるとしています。
また、弁護士が行う示談交渉においても強い味方になります。交渉の結果、1人当たり90~170万円を獲得したとその実績を誇っています。

対処方法 

そもそも残業とは会社または使用者が命じてさせるものです。会社に滞在していた時間イコール残業時間ではありません。終業後の同僚との雑談や、個人的な遊びまでも会社にいたからと言って客観的な残業時間とされては困る話です。
社員にサービス残業を強いている会社は論外で、そのような会社に対して有効な対処方法を示すことはできません。健全な会社では、悪意のある社員による不当な残業手当請求に対抗するために、次に示す取り組みをお勧めします。
① 正確な勤務時間の記録
平成29年1月20日に厚生労働省が示した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、会社は始業、終業時刻を記録しなければならず、a)使用者自らが労働者の始業・終業時刻を確認する方法、b)タイムカード等の客観的な記録を基礎とした記録、c)自己申告制によるときは申告と実際の労働時間と整合性の確認を求めています。
正確な勤務時間の記録は必須です。
② 残業時間の明確化
業務終了後は速やかに退勤させるルール、残業時のルール作りは必要です。後者は、残業許可制やだらだら残業に対しての残業禁止命令制度を設けて厳密に運用することが有効です。
正確な勤務記録がない状態に対して、「残業証拠レコーダー」で作成されたデータを突き付けられたら、会社として対抗することは極めて困難です。
勤務時間に対する適正な給与の支払い、当然ですが、これこそが労務リスクを下げる方策です。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。