1月号 退職金の不支給・減額

2018年 1月(第104号)

 退職金制度は、社員の退職後の生活設計を容易にするための優れた制度ですが、円満退職しなかった社員に対しては支払いたくないと考える社長さんが多いのも事実です。今回は、このような時の退職金の不支給、減額について見てみます。

退職金の性格 

退職金には多くの性格が絡んでいますが、主に①長年の勤続に対する功労報償、②賃金の後払いの2つの性格があると言われています。これらの性格は、厳密に分けることはできませんが、資格等級などと在任年数をポイントして累積するポイント式退職金制度では、賃金の後払いの性格が強いといわれています。労働基準法では、退職金制度が就業規則等で定められ、退職金が算出可能であると賃金の後払いと見なされ、根拠なしの不支給や減額は労働基準法違反とされます。
賃金の後払いのときは、不支給や減額が困難と判断されることが多くなりますが、功労報償であっても不支給・減額が簡単に認められるものではありません。

三晃社事件 

約10年勤務した広告代理店の社員が自己都合退職した。会社の規則によれば、退職金は同業他社へ転職のときは自己都合退職の2分の1で計算されることとなっていた。会社は退職時に自己都合時の退職金を支払い、その際に同業他社に就職した場合には、半額を返還する旨を伝えた。しかし、退職後20日ほどで同業他社へ入社し、在職中に担当していた少なくとも4社を顧客として奪った。会社は、支払済み退職金の半額の返還を求めて提訴した。
裁判所は、会社の規則によると同業他社へ入社したときの退職金は自己都合による退職のときの半額しか発生しない趣旨であると認定し、会社の返還請求を認めた。(最高裁 S52.8.9)

酒気帯びで事故を起こした社員の退職金 

郵便事業(株)の社員が私用で酒気帯び運転をして物損事故を起こし、現場から逃走後に逮捕された。会社は、就業規則に基づいて懲戒解雇とし、退職金を不支給とした。社員は、不服として懲戒解雇の無効を提訴し、予備的に退職金の支払いを求めた。
裁判所は、懲戒解雇を認めた。更に退職金は、車による集配を主たる業務とする社員としての適格性を欠き、永年の勤続の功を相当程度減殺するとしながらも、業務外の物損事故であったことから、勤続の功を抹消するほどの重大な不正行為ではないとして、不支給ではなく7割減の支給とした。(東京高裁 H25.7.18)

まとめ 

問題のある行為をして退職をした社員の退職金を不支給・減額とするには、会社の就業規則、退職金規程等に、その旨の規定が事由と共に明示してあることが前提です。その上で、退職時の行為が、長年の功績を無にするか、減殺するかが問われることになります。
会社は、退職金を不支給・減額することが目的ではありません。制度の趣旨を周知し、定年退職であれ、自己都合退職であれ円満な退職により、事業の安定を保つことが肝要です。

社会保険労務士丸山事務所は、「会社の発展とそこで働く社員の幸福の実現」を全力で応援します。

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