2025年 7月(第194号)
今月の事務所通信では、先月の「採用内定取消し事例」に続いて、「試用期間中の解雇」をテーマに、近年の裁判例や実務上の注意点をまとめました。試用期間の運用におけるリスク管理や、解雇・本採用拒否の際の適正な手続きについてのヒントになれば幸いです。
ようやく採用した社員がミスマッチだと、会社としては解雇をしなければならないときがあります。今回は、試用期間の法的位置づけと解雇または本採用拒否が有効とされた事例を紹介します。
試用期間の法的位置づけ
労働基準法にも労働契約法にも、試用期間の明確な定義はありません。本採用拒否は両法ともに解雇とみなされます。
労働基準法では試用期間中であっても、「労働者」として保護され、入社後14日を超えれば解雇予告や解雇予告手当が必要になります。行政解釈では条件付きの解雇予告は無効としていますので、「試用期間終了までに○○ができないときは本採用しない。」等の通知は解雇予告とみなされず、本採用拒否時には解雇予告手当が発生します。
労働契約法第16条は試用期間中にも適用され合理的な理由がない解雇は無効とされます。
申告内容と能力との大きな乖離
自動車のエンジンの部品の製造会社にNC旋盤の経験者として採用された社員が十分な技術を有しておらず、さらにミスを繰り返し重大事故の危険もあったことから、会社は試用期間3ヶ月を待たずに実働10日で解雇しました。裁判所は、採用時の申告内容と実際の能力に大きな乖離があり業務に重大な支障を及ぼすことが明らとして解雇を有効と認定しました。(東京地方裁判所:R6.9.18)
また、食用油ろ過機を製造する会社が溶接グループの繁忙に対応するため即戦力となる溶接経験者を求人票にも明記して募集しました。会社は履歴書や職務経歴書、作業テストの結果から即戦力を期待して採用しました。しかし、この社員は専門学校卒業者が製作するレベルの部品すら満足に作れず、会社の期待水準と実際の技術力には大きな乖離がありました。会社は、試用期間満了を待たずに約1ヶ月で解雇しました。裁判所は、即戦力の採用であったにもかかわらず技術水準が期待に著しく達していないこと、また改善が見られないことから解雇を有効と認定しました。(東京地裁:R3.10.20)
研修中の危険行為や指導無視
地盤調査・改良工事会社は、工学部新卒として採用した社員を試用期間6ヶ月途中の4ヶ月で解雇しました。解雇理由には慢性的な睡眠不足等に起因する注意力の低下により重大事故を引き起こす危険性があることを挙げています。具体例として、他の作業員が準備できていない状況下でボウリングマシンを稼働させたり、200Vの電源に手を触れようとしたり、あるいは電気ショートにより2メートルほどの火花を上げさせたことがありました。裁判所は「改善も期待できず、技術社員としての適格性がない」と判断し、解雇を有効としました。(大阪高裁:H24.2.10)
まとめ
試用期間内であっても単なる「期待外れ」では解雇はできません。解雇ができるのは、採用時の申告内容と実態の重大な乖離や、業務遂行・職場秩序に深刻な影響を及ぼす場合に限られます。
試用期間中の解雇や本採用拒否に対して、裁判所はハードルを多少低めていると言われていますがリスキーなことに変わりなく、解雇は最終手段と捉えて回避する方法を探ることが大切です。