2025年10月(第197号)
今月の事務所通信では、この7月に厚生労働省が公表した「スポットワークに関する指針」について取り上げました。スポットワークに関しては、今年5月にも一度取り上げていますが、今回は会社が留意すべき労務管理のポイントや法的対応に重点を置いて整理しております。労働条件の明示、労働時間の適正な把握、労災保険の適用、さらには雇用契約の締結方法など、スポットワークに対応するための実務的な視点も解説しております。
厚生労働省はスポットワーカーからの相談件数の急増を受けて、2025年7月にスポットワーク指針を公表しました。今回はこの指針を参考に会社の配慮事項とリスクを考えてみます。
労働契約の成立
スポットワークでは、アプリを用いて会社が掲載した求人にスポットワーカーが応募し、面接等を経ることなく短時間にその求人と応募がマッチングすることが一般的です。面接等を経ることなく先着順で就労が決定するケースでは、別途特段の合意がなければ、会社が掲載した求人にスポットワーカーが応募した時点で労働契約が成立したものと考えられます。
この時点で書面の交付等で労働条件を明示する義務があります。仲介業者が書面の交付等を代行してくれる場合もありますが、交付はあくまで会社の義務です。確実に交付されているか、その内容は適切かを会社は確認する必要があります。
労働時間の管理
労働時間の記録と賃金計算は会社の責任です。仲介業者のアプリを用いて、スポットワーカーが「出勤」「退勤」ボタンを操作することで労働時間が自動記録される仕組みであっても、それを会社が確認・監督する必要があります。労働時間の記録を仲介業者のアプリが担っているからといって会社の責任が免除されるわけではありません。記録ミスや不正打刻があった場合、スポットワーカーとのトラブルに発展する可能性があります。
給与の支払い
スポットワークは派遣とは違います。給与の支払い義務は会社にあります。仲介業者が給与支払いを代行する場合もありますが、あくまで代行するだけです。
会社の都合で休業または仕事の早上がりをさせることになったときは、労働基準法の規定に基づいてスポットワーカーに対して休業手当を支払う義務が生じます。
会社と仲介業者間の情報交換が上手く行われないで給与はもちろん、残業手当や休業手当が未支払いの事態が発生したときに労働基準法違反に問われるのは当然に会社です。
スポットワーカーが仲介業者へ手数料を支払うケースも注意が必要です。給与から手数料を徴収する場合、「賃金支払いの原則(全額払い・直接払い)」に抵触する可能性があります。スポットワーカーと仲介業者の契約で、手数料が「賃金」から控除される形ではなく、「サービス利用料」等として別途徴収されている等の確認が必要です。
労働災害防止対策
スポットワーカーの労働災害防止のため、労働安全衛生法等に基づく雇入れ時教育を講じる必要があります。スポットワーカーが通勤途中または仕事中にケガをした場合、スポットワーカーは労災保険給付を受けることができます。申請にあたって、会社は責務を果たす必要が生じます。
まとめ
スポットワークにより人数確保の柔軟性を得ることができ、仲介業者のサービスを受けることにより利便性はより高まります。しかしながら、スポットワーカーとの雇用契約に対する責務は全て雇用する会社です。スポットワーカーの採用・運用には法令順守と労務管理体制の構築が不可欠です。導入には慎重な事前準備とその後の定期的な確認作業が強く求められます。