2026年8月(第207号)
今月の事務所通信では、「既往症・持病と採用面接」をテーマに取り上げました。既往歴を質問することは就職差別につながるおそれがある一方、旅客運送業の運転者や食品を取り扱う業務など、業務内容によっては合理性が認められる場合もあります。また、既往症の有無を直接尋ねるのではなく、業務内容を伝えたうえで業務適応性を確認する質問の仕方についてもご紹介しております。採用選考時の質問内容を見直す際の参考としていただければ幸いです。
採用面接時の質問内容については、応募者の基本的人権に配慮することが求められています。今回は、既往症や持病に関して面接で気を付けるべきポイントをご紹介します。
なぜ問題になるのか
業務に直接関わりのない応募者の既往歴(過去の病歴)を質問することは、就職差別につながるおそれがあります。過去の病歴は現在の職務遂行能力の判断には通常結びつかず、完治して就労に問題がない場合でも、病気のイメージだけで不採用としてしまうおそれがあるためです。
質問する場合の注意点
職務内容を踏まえ、真に必要性・合理性のある質問であることを慎重に検討することです。もし確認する必要がある場合は、事前に応募者へ質問の目的と必要性を十分に説明し、本人の同意を得ることが求められます。
合理性が認められやすい業種の例
旅客・貨物運送業の運転者は、意識障害や急な体調変化が重大事故につながるため、てんかんや睡眠時無呼吸症候群、糖尿病による低血糖発作の有無などの確認に合理性が認められやすい職種です。また、食品を取り扱う業務では、食品衛生法との関係で感染症の罹患歴を確認する必要があります。高所作業や重機操作を伴う業務では、めまいや心疾患等、労働災害に直結しうる持病の有無を確認することが認められます。
ただし、これらの場合も業務内容との関連性を個別に検討し、必要最小限の質問にとどめます。
既往症や持病を訊かない質問
面接で確認をしたいのは、既往症や持病の有無ではありません。業務を遂行できる能力を見極めることが目的です。業務の内容を伝えて、業務への適応性を確認する質問があります。例えば、・変則勤務がある、・接客では時には意地悪な客がいることがある、・急なシフト変更がある、・長時間の立ち仕事がある、・高所作業がある、・神経を張り詰める作業がある、・繁忙期には残業時間が大幅に増える、等があるけど大丈夫ですか。
また、「業務の配置に、配慮が必要な点があればお知らせください」と任意で答えてもらう質問もOKです。
採用選考時の健康診断について
合理的や客観的な必要性が認められないにもかかわらず、健康診断書の提出を求めることも就職差別につながるおそれがあります。労働安全衛生規則第43条の「雇入時の健康診断」は、入社後の適正配置や健康管理の基礎資料とするために行うものであり、採用選考の段階での実施を義務付けたものではありません。実施する場合も、検査内容とその必要性を事前に説明し、相互の了解のもとで行う必要があります。
個人情報保護法との関係
病歴は個人情報保護法のガイドラインにおいて「要配慮個人情報」に位置づけられており、取得には利用目的の特定や本人の同意が必要です。不当な差別や偏見その他の不利益が生じないよう、取り扱いには十分な配慮が求められます。
まとめ
既往症や持病は、応募者の適性や能力とは直接関係しないことが多くあります。採用選考時の質問項目は、あらかじめ職務内容に照らして定めておき、公正な採用選考を心がけることが良い人材採用につながります。