2026年5月(第204号)
今月の事務所通信では、「給与の差押え制度」を取り上げました。社員の個人的事情であるにもかかわらず、会社に裁判所から差押命令が届くことがあり、対応を誤ると会社が損害賠償責任を負う可能性もあります。そこで、制度の概要、差押えに至るまでの流れ、会社が行うべき手続き、そして特に注意すべき「してはいけないこと」について整理いたしました。実務で迷いやすいポイントを中心にまとめておりますので、ぜひご確認いただければ幸いです。
社員が借金を返済しない時などに裁判所から給与の差押命令書が届くことがあります。今回はこの給与差押え制度を紹介します。
給与差押え制度とは
給与差押えとは、社員が借金や養育費などの支払いを滞納し、債権者が裁判所を通じて強制的に回収を図る制度です。会社は 「第三債務者」として、裁判所からの命令に基づき、社員の給与の一部を控除し、債権者へ支払う義務を負います。一方で社員の生活を守るため、民事執行法により差押え上限額が定められており、手取り額の一定割合以上を差し押さえることはできません。
給与差押えが行われる典型的な場面
差押えが行われるのは、債務者が支払いを長期間滞納し、債権者が裁判所に申立てを行った場合です。代表的な例として、
- 消費者金融等からの借入金の滞納
- 養育費の未払い
- 税金の滞納
などがあります。いずれも裁判所が「債権差押命令」を発することが前提であり、債権者が会社に直接請求してきても会社は応じてはいけません。
差押えに至るまでの手続き
差押えは突然行われるものではなく、通常は
- 債権者からの督促
- 裁判所の支払い督促や訴訟
- 判決や支払い督促の確定
という段階を経て、債権差押命令の申立てが行われます。裁判所が差押命令を会社に送達した時点で効力が生じ、会社は給与の一部を社員に支払うことが禁止されます。
会社が差押命令を受けたときに行うべきこと
まず、命令書の内容を確認し、社員の在籍状況や給与額などを記載した「第三債務者の陳述書」を裁判所へ提出します。
次に、毎月の給与支払い時に、民事執行法に基づいて差押え可能額を計算し、控除した金額を債権者へ送金(または供託)します。差押え禁止額の計算は会社の重要な義務であり、誤りがあると会社が損害賠償責任を負う可能性もあるため注意が必要です。社員が退職した場合は、最終給与・退職金に対して差押えを行い、退職した旨を裁判所へ報告します。
差押え可能額は、法より規定されています。
- 手取り33万円以下→ 手取り額の 1/4
- 手取り33万円超→ 33万円を超える部分
会社は、毎月差押え可能額を計算し、この額を給与から控除し、これを差押え総額に達するまで続けます。
会社がしてはいけないこと
差押えに関する情報は極めてセンシティブであり、取扱いには細心の注意が必要です。特に、
- 差押えの事実を上司や同僚など不必要な範囲に共有する
- 差押えを理由に不利益な取扱いをする
- 社員に債権者へ連絡するよう求める
- 債権者へ会社が直接連絡する
などはすべて禁止されています。また、差押えを理由に退職を促すことも違法となります。会社が行うべきことは、裁判所の命令に基づき、淡々と法定手続きを履行することに尽きます。
まとめ
差押えに関しては会社に裁量する余地はなく、裁判所の命令に基づいて手続きを進めるしかありません。社員に対しては制度の内容や「裁判所から命令が届いたため、会社は法的義務として対応する」、「会社には従う義務がある」、「控除額は民事執行法152条に基づき会社が計算する 」ことを文書化して、無用なトラブルを回避することが求められます。