2026年9月(第208号)
今月の事務所通信では、「言語の壁と安全配慮義務」をテーマに取り上げました。人手不足を背景に外国人労働者の受け入れが増える中、言語の違いがある労働者に対して会社がどこまで安全配慮義務を尽くす必要があるのか、実際の裁判例をもとに紹介しております。
安全教育は単に実施するだけでなく、「労働者本人が理解できる言語で行い、理解度を確認して初めて義務を果たしたことになる」、という点が実務上のポイントです。外国人材を受け入れておられる会社様は、ぜひご参考になさってください。
人手不足を背景に、外国人労働者を受け入れる企業が増えています。今回は、言語の違いがある労働者に対して、使用者がどこまで安全配慮義務を尽くす必要があるのか、裁判例をもとにご紹介します。
外国人就労者数の推移
厚生労働省の最新統計(令和7年10月末)では、外国人労働者数は257万人と過去最多を更新しました。国別ではベトナム(約60万人)が最も多く、次いで中国(約43万人)、フィリピン(約26万人)、ネパール(約23万人)と続きます。製造業・建設業・介護など、事故リスクの高い分野で外国人比率が急速に高まっている点は、企業の安全管理に大きな影響を与えています。
ナルコ事件
自動車部品工場で研修生として働いていた中国人労働者が、機械に指を挟まれ負傷した事案です。名古屋地裁は、作業手順や注意事項、事故発生時の対応等について、中国語の書面を交付するか、中国語で説明し理解を確認しなければ、安全教育としては不十分であると判断しました。
労働者本人が理解できる言語での教育が尽くされていたかどうかが、使用者の責任の有無を左右する重要な要素となっています。
アイシン機工事件
ブラジル国籍の派遣労働者が、旋盤作業中に機械に指を挟まれた事案です。1審の名古屋地裁岡崎支部では会社の安全配慮義務違反を判示しましたが、2審の名古屋高裁は、会社の全面勝訴としました。
会社側の全面勝訴は珍しいが、これに結び付けた会社の安全教育が参考になるので紹介します。
・原告は、2度にわたって会社に派遣され、いずれも安全教育を受けていた。
・会社では、安全教育の理解力を確認するため、受講後の社員に対しテストを実施し、全問正解者を合格として、2回不合格となった者の受け入れを拒否していた。原告は、2度目の派遣時には初日のテストで合格していた。
・社内の品質安全道場での安全教育では通訳こそ同伴しなかったが、日系ブラジル人の従業員が通訳を務めていた。
・異常処置や安全三訓について理解度を確認するテストを実施するなど、相応の安全教育を行っていた。安全三訓とは、①動いているものに手をだすな!、②動こうとするものに手をだすな!、③動かす手から目をはなすな!、からなる安全標語です。
実務上のポイント
以上の裁判例から、①やさしい日本語や母国語の教材を用いた安全教育、②理解度を確認するテスト等の実施、をあわせて講じることが重要といえます。
安全教育は単に実施するだけでなく、「労働者本人が理解できる言語で行い、理解度を確認して初めて義務を果たしたことになる」、という点が実務上のポイントです。
まとめ
近年の自動翻訳機や翻訳アプリの進歩により、言葉の壁は以前に比べると相当に低くなってきました。これらの技術を活用して母国語を使用した安全教育を行い、事故の発生しない職場を目指したいものです。